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Guicho Zurdo、ハリウッドへ行く~「The Movies」のリプレイ(その1) 

経緯はコチラ


汝、便器の御旗の下に集え~1920年1月1日

―――ロサンゼルス・ハリウッド某所

GZAstudio.jpg「…広いですな」
今回の映画ゲーム話にはまったく乗り気でなかったかつての総統補佐官カール・ポテンテ、今は元の黒猫ポンセに戻ったその猫は、想像以上に広大なスタジオの敷地を前に思わず嘆息を漏らすのだった。そんなポンセの脇で、偉大なるぎ印ドイツ帝国総統、今はハリウッドの山師と化したGuicho Zurdoはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「フン。土地だけでは映画にはならんわい。手持ちの$150,000を元に制作事務所やらセットやらの映画制作に係る各物件を建て、諸々のスタッフを雇い、監督や役者どもを揃えてようやく映画会社としてのスタートラインじゃ」
「ふむ。…ところで閣下、会社名はどうするので?」
「もう決まっとるよ。その名も偉大な『Guicho Zurdo Arts』、略して『GZA』じゃ」
「フルネームはまあともかく、略語の音感が悪いのが気になりますな。GZA、GZA…」
「わしの会社がメジャーになればそれも軽やかな音感に聞こえようて。うわっはっはっは」
メジャーになれるのならな…。そう心の中でつぶやいたポンセは、ふと門に隣接する建物にたむろする人々の存在に気づいた。
「彼らが役者志望の連中ですか」
「ん?…いや、あいつらはここのインフラ関係の職を求めてやって来た連中じゃ。建設やら環境整備の専従じゃな。まずはあいつらを雇うことからはじめにゃならん。が、その前に…」
Guicho Zurdoは物件リストを開くと、会社の核となる物件を順番に選びながら、スタジオの入口から中へと延びる道路を挟んだ両脇に展開という布陣で配置をはじめるのだった。
「映画は脚本がなければはじまらん。なので脚本事務所(script office)をここに。それから撮影するためには撮影クルーという連中が必要じゃ。そいつらを雇うための事務所(crew facility)も要るな。それから俳優やら監督、エキストラどもめの養成所(stage school)も建てにゃならん…」
偉大なるにわか映画会社社長はさらに続けた。
「…映画撮影のための必要な人員はひとまずこれで賄える。が、それだけでは映画にはならん。脚本ができて監督と配役が決まり、撮影クルーが決定したとこで招集かけてホン読み込みやらのリハーサルの場(casting office)が必要じゃな。で、いよいよ撮影。そのためには映画の撮影場所となろう各種セットがなければ撮りようがない。ということで、現段階で建てられるのは基本的な舞台(stage)、それと西部劇用のセットがふたつ(wildwest:desert, saloon)…」
次第に熱を帯びていくGuicho Zurdoの言葉を聞くともなしに、周囲をぼんやりと眺めていた黒猫ポンセは、ふと門の脇にある支柱を目を留めた。その柱の先を目で追ったポンセは、その頂上でゆらゆらと翻る旗を見て怪訝な顔をした。
「閣下」
己が熱弁を遮られた社長閣下は不機嫌そうに眉根を寄せて振り向いた。
「何じゃい」
「あれは何です?」
GZAflag.jpg猫が指差した先には、水色とも灰色ともつかぬ微妙な布地の旗が力なく揺らめいていた。旗には黄色とオレンジで彩られた星がデザインされているが、その星を背景にして中心に描かれているのは洋式便器であった。
「旗じゃ」
「旗はわかりますよ。何の旗かと聞いているんです」
「社旗に決まっとろうが。わがGuicho Zurdo Arts社の御旗じゃよ」
「社旗ィ?」
「そう、社旗」
「何で社旗が便器なんですか!」
「便器で何が悪い」
「この会社を象徴するマークですよ?なぜよりによって便器にするんですか!ほかにもあったでしょ」
「あったよ。お馬さんやらモーモーさんやら、うむ。いろいろあったのう」
「だったらそういうのを選べばいいじゃないですか!」
「よく聞けポンセ。世の中には便器マニアと呼ばれる人たちがおる。あるいは便器フェチとも言おうか。いずれにせよ愛でる対象が対象なもんで、その人たちはかわいそうに便器好きを公言もできず、ひっそりと日陰者のように生きておる。ひんやりとした便器の曲線を指でなぞりながら、誰にも言えぬその気持ち、叶わぬ願いに涙しとるんじゃ。唯一の理解者はうんこだけじゃ。辛いのう。わしはな、そういう人たちを見捨てたくないんじゃ。あの旗は世界の便器マニアへのわしからのメッセージなんじゃ。『辛い時には顔を上げてごらん。ほら、わしはいつもあなたと共にある。ラーメン』」
「そんな人いませんよ!これから85年間われわれはあの便器を背負っていかなければならないんですよ。朝鮮人じゃないんだから先のことも考えてください!」
「わしは常に千年先を考えておる。たかが旗で騒ぐでない。わしは物件配置で忙しいんじゃ。お前はお散歩でもしとれ」
…駄目だ。この男はやはり駄目だ。駄目印だ。ゲームがはじまる前から既に暗澹たる気持ちに襲われる黒猫ポンセなのであった。

どんよりとした瞳で便器印の旗を見上げる黒猫の背後を、巨大な影が覆った。影の主は黒猫のそばを通り過ぎると、物件配置を吟味するGuicho Zurdoの背後で止まった。
「ちょっと社長さん♪」
その妖しげな猫なで声に、Guicho Zurdoは建設リストから目を離し、怪訝な顔で振り向いた。小柄な社長閣下の目線では壁のような胴体しか見えず、仕方なしに視線を上げると、その遥かなる頂ではニコニコ顔が鎮座していた。影と声の主は、黒猫ポンセの護衛であるヴィルヘルミーナ・アンナ・クルマン、通称、枠少尉であった。
「何じゃ凱旋門」
枠少尉はニコニコ顔で聞いた。
「あたしのお役目は何かしらん?」
Guicho Zurdoの代わりに、黒猫ポンセがゲラゲラ笑いながら言った。
「おいおい、お役目なんて決まってるじゃないか。枠、お前は門番だよ。そこの門の前に立っていればよろしい。立ってるだけでヨクキク。SECOMよりもヨクキク」
返事の代わりに、枠少尉はその鋼のような臀部で黒猫に強力なヒップアタックを浴びせるのだった。ヨクキク尻砲の直撃を受けた黒猫はゴロゴロと表のブルーバード・ストリートの車道まで弾き飛ばされると、たまたま運悪く通りかかったフォードにボインとはねられ、宙高く舞い上がった。そして餌を求めて上空を旋回していたハゲタカがその好機を見逃すわけがなく、哀れ黒猫ポンセは飢えたハゲタカに襟首をくわえられ、どこぞへと連れ去られてしまうのであった。
次第に遠のいていく「タスケテクレエ」の悲鳴を聞きながら、偉大なる社長閣下は深い深い嘆息を漏らすのだった。
「面白いのう。面白いのう。わしはああいう映画を作りたいんじゃな」
枠少尉は大空の彼方に消え行く黒猫など見向きもせず聞いた。
「で、社長さん、あたしは何すればいいの?」
Guicho Zurdoは枠少尉に衣服の一式を手渡した。
「まずはそこの門の脇の詰所に行ってだな、これに着替えてきなさい。話はそれからじゃ」
数分後、枠少尉は茶色のシャツにオレンジのつなぎのズボン、そして軍手と黄色いヘルメットという姿で戻ってきた。
「…何、この格好?」
「見ての通り、建設要員の格好じゃな」
「ハア?」
「これから建設ラッシュがはじまるでな。任せたぞ」
「ちょっと!誰が土建屋になりたいなんて言ったのよ!」
偉大かつ図々しい社長閣下は、詰め寄る巨躯にはまるで動じないのであった。
「凱旋門よ、お前は今すぐ映画に直接携わる何かを期待しとるんだろうが、そうはいかんのじゃ。あれを見よ」
Guicho Zurdoは広い、しかし何もない敷地内を指差した。
「見ての通り、まだなーんもない。つまり、誰かさんが何かを建ててくれんとお話にならんのじゃな」
「その“誰かさん”がなんであたしなのよ!」
「お役目欲しいのお願いを叶えてやったんじゃ。文句を言うでない。それにわしは永久に土建をやれとは言っとらん。然るべき時が来たら然るべき仕事を与えるつもりでおる」
枠少尉は疑い深い目で社長閣下を見た。
「その話、本当だろうね?」
「本当じゃ。わしは嘘は医者に止められておるからの。とにかく、映画作りに関係したくばさっさと建てることじゃな。うむ」
「…なら仕方ないわね。初動の各物件はあたしが建ててやるから、その代わり後でいいお役目ちょうだいよ」
「約束しよう。約束しよう」
Guicho Zurdoの“約束”とは常に口先だけであることを、枠少尉はまだ知らないのであった。純粋無垢な巨躯の女士官はヘルメットの庇を直すと、ハンマーを手に言った。
「で、何から建てればいいの?」
「まずは脚本事務所からじゃ。その後は建設予定の順にやればよろしい。…ああひとりでは大変だからの、お仲間を呼んでやろう」
Guicho Zurdoは門の前の詰所にたむろする人々を雇いはじめた。4人を建設従事、2人を環境整備従事とし、ほどなくして同じ顔と格好をした建設スタッフがぞろぞろと詰所から出てくるのが見えた。建設スタッフはすぐに脚本事務所の建設を開始した。
「ほれ凱旋門、はじまったぞ。行ってきなさい」
その言葉を受け、枠少尉は靴紐をぎゅっと締め直し、現場に向かって走り出した。そして途中で思い出したように振り向くと、Guicho Zurdoに念を押すのだった。
「約束、忘れるなよ!」
偉大かつ心底腹黒い社長閣下は、走り去る巨躯に向かってにこやかに手を振り、小さくつぶやいた。
「はてさて。約束とは何だったかのう」
この元独裁者がその場しのぎのためならどんなことでも言うのを知るのは黒猫ポンセのみであり、その黒猫は今、ハゲタカのくちばしの先でもがきながらカリフォルニアの青い空を飛んでいる最中であった。
枠少尉が物件建立に取りかかるのを見届けた映画会社社長Guicho Zurdoは、再び建設リストを開くと、物件配置の検討の続きをはじめるのだった。
「大物はひとまずこれで揃うとして、小物も建てにゃならんな。便所(restroom:small)を道路の切れ目に置いて、その対岸に軽食の屋台(snack van)を置いてだ…」

危うくハゲタカの雛鳥の餌になりかけた黒猫ポンセが、モハーヴェ砂漠からよろよろと戻ってきたのは、それから1ヶ月後のことであったという。


つづく。

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