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Guicho Zurdo:千年帝国の野望~「Hearts of Iron・Ⅱ」のリプレイ(その16) 

経過はコチラ

※本編よりサイドストーリーの展開の方が秀逸という評価は喜んでいいのだろうかw


Sister Moon~2007年5月8日(黒猫暦:1940年12月24-25日

ぎ印ドイツ帝国総統Guicho Zurdoは、feti虎教授が書き記した膨大な「欲しいものリスト」を前に、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「なんでわしが産経新聞の購読料まで払わねばならんのじゃ…」
渋面の総統閣下はふと、目の前で電話を受けている側近ゴルビ犬の顔が自分以上に苦々しい顔をしていることに気がついた。犬はひそめた声で電話の先の相手に短く何事か言伝ると、深いため息をつきながら受話器を戻した。
総統Guicho Zurdoは、ただならぬ事態を察知した。
「どうした?」
ゴルビ犬はぼんやりと顔を上げたが、すぐに威儀を正すと、偉大なる総統閣下に報告した。
「閣下、“薔薇”が、…薔薇が突出しました」


―――もうひとつのベルリン

ニーナ・兎・ゲーレン、この世界では総統秘書官ニナ兎として知られていたその兎の本当の姿は、“薔薇”のコードネームで畏れられた、ぎ印ドイツ帝国保安防諜局(ぎ印SD)の諜報員であった。今、ニナ兎は月明かりの下、ヴァンゼー湖の畔をひとりとぼとぼと歩いていた。冷たい夜風に吹かれ、いくばか平静を取り戻した彼女は、今さらながら己が暴走に後悔の臍を噛むのであった。
その晩、彼女が独断で敢行したカール・ポテンテ補佐官への直接攻撃、すなわち沸騰コーヒー・テロは、以前の失態に対する意趣返しという大義名分の下に計画・実行されたものではあった。しかし本当のところは、それは抑えられぬ女の情念を昇華させたいがゆえの、短絡的かつ直情的な訴えに過ぎなかったのである。
計画を思い立ったその瞬間から、薔薇はもはや薔薇ではなく、どこまでもニナ兎であった。結果、普段の冷静沈着さや抜け目のなさはどこへやら、およそプロらしからぬ素人臭いやり方で行動を開始し、感情を先行させ判断力を失い、そして失敗したのだ。
凍てつくような風に震えながら、ニナ兎は思った。すべてあのロシア女のせいだ。すべてはあのロシア女のせいだ。すべてはあのロシア女のせいなのだ…。
が、誰のせいであれ、失敗は失敗である。正体が完全に割れてしまった以上、もう総統官邸に戻ることはできない。それどころか、本国にも帰れるかどうか怪しいのだ。今夜のことはもうぎ印の総統の耳にも入っているだろう。猫と女性にやさしく蚊に厳しいと噂される総統閣下ではあるが、勝手な行動に走り、しかも失敗に終わった自分に寛大な沙汰が下されるというのは甘い幻想というものだ。近いうちに、本国への召還命令が下るだろう。そして戻った自分は裁きの身に付されるのだ。これまでの貢献を鑑みれば最悪の処断はなかろうが、それでも過酷な運命が待ち受けていることには変わりない。ニナ兎は立ち止まると、恐怖に震えた。冗談ではない。そうとわかって帰る糞度胸などあるものか…。
だがもし、召還命令に応じなかったとしたらどうなるのか。…恐らく本国から追っ手が差し向けられ、制裁と口封じと見せしめを兼ねた、帰った場合よりなお悪い結末を迎えることになるのだろう。そう思い至った時、兎は改めて自分が置かれている状況が実にのっぴきならないものであることを知るのだった。今やこの世界の官憲はおろか、本国からも追われる身となったのだ。
「逃げよう…」
唐突にニナ兎は思った。図らずも口に出たその考えは、すぐに明確な形となって兎の心を支配した。そうだ、逃げるのだ。逃げて逃げて逃げまくって、どこまでも逃げ延びてやるのだ。逃走の意志が固くなるにつれ、ニナ兎は活力がみなぎってくるのを感じた。そうだ、自分には多羅尾伴内よりも豊富かつ完璧な変装術があるじゃないか。それを駆使して追及の手をとことんかわしてやるのだ。見知らぬ誰かに成りすまし、何食わぬ顔でぬくぬくとこの世界で生き抜いてやるのだ。正体を見破れる者などいようものか。…あのロシア女以外は。
兎は既に薔薇の顔に戻っていた。「逃亡生活」という選択に光明を見出したその“元”スパイは、そそくさと着ていたサンタクロースの衣装を脱ぎ捨てると、湖の反対側に拡がる、月明かりを拒む漆黒の森へと脱兎そのままに駆け込み、姿をくらますのだった。

今夜は月が明るいのだな…。
ニナ兎が突き破った窓の前で、黒猫ポンセ、今は総統補佐官カール・ポテンテを名乗るその猫はぼんやりと夜空を見上げた。その後ろでは護衛兼当番のヴィルヘルミーナ・アンナ・クルマン少尉、通称・枠少尉が刑事警察(クリポ)からやって来た捜査官たちを相手に、発砲時の状況・経緯を身振り手振りで説明していた。
刑事からの質問が一段落ついた時、枠少尉はポテンテの後姿をちらり見た。その背中からは、ショボンヌのオーラが悲しげに漂っていた。ちょいと荒療治に過ぎたか。しかし、ああでもしないとな…。そんな少尉の意識に誰かの声が割り込んだ。ふと気づけば、刑事のひとりが何か質問している。それはさっきも聞いたろ馬鹿…。枠少尉はため息を押し殺しつつ、再び身振り手振りで説明をはじめるのだった。
やがて、この大柄な護衛から実のある話はもうないだろうと判断した刑事たちは、今度は窓辺で佇むポテンテに事情を聞くべくぞろぞろと歩き出した。その時、背後から枠少尉の逞しい腕が伸び、ひとりの刑事の襟首をむんずと掴むと、そのまま高らかに引き上げた。超人ハルクが如き怪力に呆然とする刑事たちを一瞥すると、少尉はぐるんと手首を捻り、吊り上げられた刑事を自分の方に向かせ、一言づつ染み渡るように言った。
「補佐官はひとりハートブレイクホテルだ。今はそっとしておけ」
ハンガー状態の哀れな刑事はウンウンと頷いた。少尉は居並ぶ刑事たちをじろりと見渡した。刑事たちはハンガー刑事と同じく、一斉にウンウンと頷きマーチを奏でるのだった。
クリポの面々が現場を去ってしばらくすると、ポテンテもまた冷たい夜風が吹き込む窓から背を向け、そっとそこを離れた。失意の補佐官を気遣い、枠少尉は壁にもたれたまま黙って黒猫を見送るのだった。今はひとりがいいだろう。それにこの厳重な警戒網の中、襲ってくる馬鹿もおるまいて…。
ポテンテも去り、部屋に誰もいなくなったのを見て取ると、大柄な少尉は壁からゆっくり身を起こし、件の窓へと歩み寄った。冷たい夜風に揺れるカーテンを振り払い、砕けた窓枠に残ったガラスの割れ目を仔細に検めはじめた少尉は、ほどなくして割れ目の先に引っかかった、赤い布の切れ端を認めるのだった。それは刺客が着ていたサンタクロースの衣装の一部分であった。枠少尉はふと、そこから仄かな香りが漂っているのに気づいた。少尉は風に揺れる布切れを慎重に手に取り、そっと匂いをかいだ。ポテンテがいつも気に留めながらも、結局最後までわからなかったそのニナ兎の香りの正体を、少尉はすぐに突き止めた。
「…どこぞのオード・ト・ワレ、『ローズの香り』。なるほど、“薔薇”とはよく言ったものだ」
過去数年来、常に噂されながらも一向にその正体が掴めなかったぎ印ドイツ帝国の謎のスパイ、“薔薇”。その名の由来を知った少尉は、ひとり得心したように頷いた。
「単純明快。とはいえ、男どもにこれはなかなかわからんやね」
少尉は手にした布の切れ端を弄びながら、薔薇が水道屋に変装した時の対峙のことを思い返した。あの時は薔薇の香りはしなかった…。ふん、使いどころは一応心得てるというわけだ。まあそれはよしとしても、スパイ稼業に色気は禁物だよ、兎さん…。
枠少尉はこの布切れをどうしたものかと思案した。貴重な証拠ではあろうが、クリポのぼんくらどもがあの兎を捕まえられるとも思えん。
結局、短気な少尉殿は布切れを窓から投げ捨てるという方法で問題を解決することにした。また聴取だ何だで呼び出されるのも面倒だしな…。
窓から放り出された赤い布の切れ端は、ひらひらと虚空を踊りながら落下し、中庭の池へとその身を横たえた。池の水は不意の訪問者を静かな波紋で迎え入れた。揺れる水面が、そこに照らされた月の分身をゆらりと歪めた。


運び屋たちのクリスマス~黒猫暦:1940年12月24日

どこからともなく現れた一機のくたびれたJu-52輸送機が、眩し過ぎるくらいに明るく輝く月を背に、左へ右へと怪しく揺れながらワッデン海の上空を飛行していた。

ドルン、スポポポ…。

またか…。左エンジンの明らかな異音に、オットー・デスロッホ中将はいまいましげに背後を振り返り、頼りなげな片翼のエンジンを睨みつけた。ええいぽんこつめ。頼むから“積み荷”を届けるまでは持ちこたえてくれよ。
老将の鋭い眼光に応えたか、やがてエンジンは復調した。デスロッホ中将は安堵の表情で視線を戻した。この下手したら墜落しかねない心胆寒からしめるトラブルにも関わらず、向かいに座る“積み荷”は泰然自若の様子で本のページをめくっている。よくよくの豪の者か、さもなくば何もわからぬ素人か…。輸送機隊の長はまだ測りかねていた。
立場をわきまえている将軍は、この奇妙な任務を命じられた時も何も聞かなかったし、その“積み荷”の正体が自転車と本を抱えた平凡な虎と知った時も何も言わなかった。オットー・デスロッホ中将は紳士らしくゲストを丁重に出迎え、機内へとエスコートしたのだった。自分に課せられた任務は命じられた“積み荷”を命じられた先に届けること、それだけだ。余計な詮索はすまい。
…が、好奇心はまた別ものだ。将軍は客人の脇に固定されたRoverの自転車に目をやった。いったいこの虎は何の任務を帯びているのだろう…。

本をぱたんと閉じたfeti虎(こ)教授は、向かいに座る将軍の控えめな好奇の視線に気づいた。それに微笑で応えた教授は、窓から差し込む月明かりに目を細めながら尋ねた。
「あとどれくらいですか?」
デスロッホ中将は時計をちらりと見た。
「15分ほどですかな」
「この機はどこへ降りる予定で?」
「ロストクですよ。北部の港湾都市です」
そしてしばしの逡巡の後、付け加えた。
「…ベルリンからはちょっと距離はありますがね」
老将のそのさりげない誘導を、虎は華麗にスルーするのだった。
「あら、誰かベルリンに用事でもありまして?」
将軍は苦笑すると、月明かりに照らし出された自転車を見やった。
「いやなに、ヴァンゼー湖あたりでサイクリングでも楽しまれるのかと思いましてね。…それにしても、いいのに乗っておられるようだ。いや、これから乗るのかな」
feti虎教授は自転車のサドルを愛しそうに撫でながら言った。
「ええ、初乗りはこれからです」
その時、再び左エンジンが不調をきたし、機体がガクンと大きく揺れた。ええいぽんこつめ、しっかり飛ばんか!心の舌打ちとは裏腹に、デスロッホ中将は平然とした様子で言った。
「おやおや気流が乱れてるようで。ちょっとばかり揺れることもありましょうが、なあに大丈夫ですよ。操縦士の腕がそれを補って余りある。なあ大尉?」
操縦席の若い尉官が汗まみれのこわばった笑顔で振り向き、震える親指をピッと立てて応えた。うろたえおって馬鹿者。こっちまで不安になるわ。…呼ぶんじゃなかった。そんな軽い後悔の念を打ち消さんと、将軍は努めて明るく言った。
「まあ揺れるのは機体の古さというのもありますか。もっと最新鋭の機でお送りしたいのですが、あいにく輸送機は改良が著しく遅れてましてな。…いや、輸送機のみならず空軍全般が、と言った方が正しいですかな。どうやらわれらが偉大なる総統閣下は、飛ぶモノより走るモノにご執心のようだ。いずれ急降下爆撃自転車でも開発されるんでしょう」
その皮肉に、feti虎は思わず吹き出した。将軍は物珍しそうに、再びRoverの自転車を見やった。
「自転車のことはよくわからんのですが、見たところ、よいパーツを使ってるようだ。下司な話だが、…高いのでしょうな?」
「それなりでしょうね。ただ、払ったのは私じゃないので」
「ほう、よいスポンサーが付いておられるようですな」
「ええ、これ以上ないスポンサーでしょうね」
ということは総統閣下直々の命令で動いているわけか。興味深い。ますます興味深い…。
将軍の好奇心をよそに、feti虎教授は窓外に目をやりながら尋ねた。
「ところで、どこへ降りるにせよ、問題はないのですか?」
「その点はご心配なく。この機はロストク空軍基地へのクリスマス・プレゼントを届けるということで着陸許可を取ってます。実際、プレゼントを積んでるんですよ。シャンペンをね。ですから、迎撃機や対空砲の歓迎はまずありませんよ。彼らとてせっかくのシャンペンを台無しにはしたくはないでしょうからな」

それから数分後、ぽんこつユンカースはふらふらと降下しながらロストク空軍基地に姿を現した。操縦桿を握る若い大尉は機を必死になだめつつコントロールし、着陸の瞬間に備えた。ボインボインと何度か跳ねながらも、ぽんこつ機の車輪はどうにか滑走路を捉え、やがて完全に接地した。汗だくの大尉は減速に全精力を注ぎ、副操縦士の中尉はすべての神に祈った。機体はガクガク揺れながらも着実にスピードを落とし、最後にブルンと大きく震え、停止した。
feti虎教授を除く全員がその恐怖の着陸ショーに安堵するのも束の間、周囲には既にシャンペンに飢えた兵どもが待ち構えており、ぽんこつ機の扉が開くや否や一斉に機内になだれ込み、へたり込む老将を尻目に、シャンペンの木箱を次々と運びはじめた。
敵国のサンタクロースからのプレゼントとは露知らず、歓喜の兵どもが遠くに去ったのを確認すると、デスロッホ中将は向かいの座席の下の収納スペースを開き、そこに隠れていたfeti虎に合図した。
「さあ、今なら大丈夫。降りて」
feti虎は隠れ場から抜け出るとそそくさと荷物をまとめ、機外へと降り立った。その後から副操縦士の中尉が、慎重な手つきでRoverの自転車を運び出した。
「お忘れ物はございませんな?」
「ええ、大丈夫です」

“積み荷”を無事に送り届け、任務を果たし終えたオットー・デスロッホ中将は晴れやかな表情だった。…そろそろお別れの時間だな。輸送機隊の長は威儀を正し敬礼すると、にやりとしながら言った。
「あなたの場合、『ご武運を』という言い方は適当ではないのでしょうな」
feti虎教授は「あは」と声に出して笑った。
「『よい旅を』と言っていただければ」
「そうですか。では、…よい旅を」
feti虎は深い一礼で応じた。
「将軍も道中お気をつけて。…エンジンが心配です」
今度は将軍が笑う番だった。知っていたのか。ではこの虎はよくよくの豪の者というわけだ。
「お心遣い、感謝します。ま、私も心中相手は選びたいのでね。無事帰りますよ」
傍らの中尉が割り込んだ。
「それは自分とて同じであります中将閣下。心中相手は選びたいものです」
老将はいたずらっぽい笑みを若い部下に向けた。
「そうだな。お前の相手は麗しのフラウ・ユンカースがお似合いだ。…さて、同じドイツとはいえここは敵地。早めに姿を消した方がいいでしょう。われわれも行きます。では」
運び屋たちはくるりと背を向け、ぽんこつユンカースへと向かった。機内に入りかけた将軍を、feti虎は呼び止めた。
「ああ将軍、ひとつだけお聞きしたいことが」
デスロッホ中将はその呼びかけに応え振り向くと、何でしょうと言うように首を傾いだ。feti虎教授はにっこりと微笑みかけると、朗らかに尋ねた。
「ベルリンで一番いいホテルってどこかしら?」


薔薇の名前~2007年5月8日(黒猫暦:1940年12月25日

総統執務室は漂う紫煙と重苦しい空気に包まれていた。ゴルビ犬は今すぐにでも飛び出したい心境であったが、己が部下の不始末という手前、そういうわけにもいかなかった。
申し訳なさそうにうつむく犬に、総統Guicho Zurdoは質した。
「…つまり話を総合すると、その、…ニナ兎といったか、わしに無断で黒猫成敗を目論み単独で行動を起こし、護衛の返り討ちに遭って失敗、逃走したと。ついでに正体が完全に割れて二度と使えぬ役立たずになったと」
「は…」
「しかしお前の見立てでは、ニナ兎とやらはそんな無茶をするようなタマではないということだな?」
「はい閣下、私も未だ信じられないのです。彼女は私の最も信頼のおける優秀な部下であり、勝手な暴走をするような無頼の者ではありません。黒猫の出奔よりスリーパー“薔薇”として向こうの世界に渡り、目覚めて以降、これまで長らくわが国のために忠義を尽くしてきました。課された任務の失敗はありましたが、自ら炎上するような挙に出るなど、到底考えられないのです」
「だが、実際そういう行動をしたわけだ」
「は…」
「なぜだと思う?」
「わかりません」
「お前の見立てでよい。なぜだ?なぜあの兎めは暴走したのだ」
ゴルビ犬はしばし沈思し、やがて自信なげに答えた。
「…考えられるとすれば、前回の任務で黒猫の護衛にしてやられた失点を取り返さんと、功を急いだのではないかと。そうでなくば、諜報員としての誇りを傷付けられたことに対する、個人的な復讐…」
「どちらにせよ、それは慎重かつ冷静沈着という評価とはおよそかけ離れとると思うがの。その兎めはそんな勲功に飢えておったのかね。あるいはそんなに感傷的でスパイ稼業は務まるのかね」
「………いえ」
「結局、動機はわからんということか」
総統閣下はふんと鼻を鳴らすと、新たな煙草に火をつけた。再び沈黙が部屋を支配した。その重苦しい空気に耐えられなくなった犬が尋ねた。
「…して、閣下、ニナ兎の処罰は如何に?」
「ん?…ああ、ほっとけ」
「は?」
「好きにさせいと言っておる。放置プレイじゃ」
「………よろしいので?」
「召還命令出したら素直に帰ってくるかね?」
「…応じないでしょうな」
「追っ手を差し向けてもよいが、お前が言うには、兎めは多羅尾伴内よりも豊富かつ完璧な変装術を持っとるそうだな。もし兎めが誰かに変装してたとしたら、わしの刺客はそれを見破ることはできそうかね?」
「…無理ですな」
「無理なのは向こうの官憲も同じじゃ。誰にも見つけられん。時間の無駄だし、下手に刺客を送り込んで迂闊に嗅ぎ回らせてたらそいつらが割られかねん。薮蛇じゃ。それに…」
ぎ印ドイツ帝国総統Guicho Zurdoは腹黒い笑みを浮かべた。
「お前の見立てが正しいとすれば、兎めは勲功なり復讐を成就させんとまた行動を起こすかも知れん。それはそれで結構。ヒイヒイ言う猫めをエンジョイできるのは変わらんからの。またコケても構わん。わしは何も関知しとらんからな。堂々としてればいいんじゃ。失敗の果てに向こうの官憲にとっ捕まってもok。もうぎ印とは関係ない者が勝手にやったことじゃからの。知らんぷりしてればいいんじゃ。それに、そうなった場合は向こうの司法がわしの代わりに罰を与えてくれる。つまり、どう転んでもおいしいわけじゃ。ということでな、兎めはほっといて好きにさせるが一番なんじゃ」
「…は」
ゴルビ犬は、それでも気がかりなことを尋ねた。
「閣下、もし、もしニナ兎が帰ってきたとして、その場合はどのような処断を下されるのでしょう?」
総統閣下はくるんと社長椅子を回転させ、背を向けた。そして、遠くを見つめるように言った。
「グリーンランドに逝った、ヴォルフ少将だったか。元気にしとるかのう…」
…つまり、島送りというわけか。やはり厳しい沙汰は避けられないようだ。犬は希望の光が急速に衰えていくのを感じた。総統閣下は背を向けたまま続けた。
「わしは猫と女性にやさしく蚊に厳しいという男で通ってるでな、イメージ・ダウンは困るんじゃ。万が一兎めが帰ってきた場合は、沙汰はお前が伝えい」
「わかりました。…失礼します」
ゴルビ犬は総統執務室を後にした。そっと扉を閉め廊下に出た犬は、首を振り振り大きなため息をついた。泣いて馬謖を斬れと申されるか。しかし、私にそれはできそうもない…。何といっても、ニナ兎はゴルビ犬がその才覚に目を付け、手塩にかけて育てた部下なのだ。その信じ難いような失敗を知った今とて、そうやすやすと斬り捨てる気分にはなれないのだった。
いったい何があったのだ、ニナ兎よ。ゴルビ犬は長い廊下の途中で立ち尽くした。そしてしばしの沈思の後、とある決意を固めるのだった。昔取った何とやら、今でも通用することを祈ろう…。ゴルビ犬は再び歩きはじめた。やがて総統官邸を後にした犬は、ぎ印国家保安本部の置かれた通りへと急ぎ足で向かうのであった。


クリスマスの朝、脱ぎ捨てられたサンタクロースの衣装が、ニーナ・兎・ゲーレン、あるいは“薔薇”として知られるぎ印ドイツ帝国のスパイが着ていたものであると断定した刑事警察は、捜査員を動員しヴァンゼー湖畔一帯をくまなく捜索した。しかし、ニナ兎の足跡は深い森の半ばで途絶え、以降、その行方は杳として知れなかった。

同じ頃、ぎ印ドイツ帝国総統Guicho Zurdoは、feti虎教授が泊まったベルリンのホテル・アドロンから送られた高額の請求書に、鼻血を噴き上げ卒倒していた。

つづく。

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コメント

ひとまずキャッチャーミットが届く範囲には留める所存。しかし暴投しないという保証はどこにもない。


>虎

わしの口座をどうする気か。

ホテルアドロンケンピンスキー プレジンデンシャルスイート




1泊20000EUR。

ポンセも左義長閣下も脱線しまくりでw

ぐうぐう。

なんか、もう一つのベルリンより、パワーアップしてません?

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